Les miZenables

ブログをメモ帳と勘違いしている

読みました : シャーロック・ホームズ 緋色の研究(新潮文庫, 延原謙訳)

この決意ができたばかりの日だった。クライテリオン酒場のまえにつっ立っていると、肩をたたくものがある。ふりかえってみると、聖バーソロミュー病院時代私の下で助手をつとめていたスタンフォード青年である。(p. 9)

 アフガニスタン帰りのワトスン医師が、かつての助手スタンフォード青年と出会ったことがキッカケとなって、彼はシャーロック・ホームズと出会う。
 この部分はとても重要だ。スタンフォードに肩を叩かれなければ、ワトスンはシャーロックと出会わなかったのかもしれないのだから。
 この場所、「クライテリオン酒場」、これを覚えておきたい。

 さて、織倉未然のペンネームは、かつて織倉亭未然という名前でありまして、この「織倉亭」の部分、実はこの「クライテリオン」酒場に由来します。
 嘘です。今作りました。

 ちょっと調べると、Criterion Restaurantというのは見つかる。ただし原文ではCriterion Barとのこと。やはり原著、原文を当たりたくなるな。  Barがどういう経緯でRestaurantになったのかは気になるところ。  聖地のひとつになっているのかな。

 このCriterion Restaurant、Wikiによると、

The Criterion was featured in The Dark Knight) during the restaurant scene when Bruce Wayne tells his guests that he owns the restaurant when they questioned whether they be allowed to move tables together. (Criterion Restaurant - Wikipedia

とのことで、なるほど画像検索してみると、どこか見覚えのある場所だ。映画『ダークナイト』のロケ地になっている。

どうやら、クライテリオン・レストランはすでに閉店しているらしく、2019年3月時点で別のお店になっているっぽい。いずれにせよ、この格調の高さはちょっと入りにくい気がする。待ち合わせをして、見返り美人をするだけならまだいけるか……?

criterionは名詞。「…に必要な」(判断・評価の)基準」とかの意味。でも使う時は「No single criteria is enough for me. : 私にはたった一つの基準では不十分だ」とかなる。ははーん、さてはお前、ラテン語だな?

From New Latin criterion, from Ancient Greek κριτήριον (kritḗrion, “a test, a means of judging”), from κριτής (kritḗs, “judge”), from κρίνω (krínō, “to judge”); see critic. criterion - Wiktionary

よし、ラテン語だな(自己満足)。

中身について

シャーロック・ホームズをちゃんと読もうとして、ちゃんと読んだのは今回が初めてなんだけど(ルブラン派)、面白かった。BBC製作のドラマとは結構違うのだな。
違わないところも結構あって、登場人物がかなり愛しくなる瞬間がある。メモを取っていなかったから、誰がどこでってのを覚えてないんだけど、ところどころ「萌えキャラかよ」ってツッコミを入れてしまった。きゅんと来る瞬間があったのは驚き。これ19世紀の作品だぞ。萌えは時を超えるんだなってのを再確認した。
シャーロックが、ワトソンが好きな推理小説の主人公をこき下ろすシーン。これはちょっと衝撃だったが、相対的にシャーロック自身の探偵術が科学的に先進的であることを意味する、と解するしかなくね? と落ち着く。

一番驚いたのが、第一部のラストで犯人が捕まった後、第二部がはじまり、犯人のそこに至るまでの話がはじまるところ。そのロマンスあふれる挿話、やっていいのか! って感動した。こう感動してしまう辺り、現代に毒されているな、と反省する。

広漠たる北アメリカ大陸中部地方には、いとうべき荒蕪(こうぶ)不毛の一大砂漠が存在して、多年、文化の進出を阻止する障壁をなしてきた。…そこには雪をいただく巍然(ぎぜん)たる高山があり、昼なお暗き幽谷があり、峨々(がが)たる峡谷を貫いて荒れくるう奔流があり、…(p.127)

語彙が増える。ルビがなければいくつ読めたか自信がない。何を訳したらこういう日本語が出てくるんだ。とても気になる。やはり原著、原文にあたらなければならないな……。

この第二部の冒頭(といってもかなりの量がある)、犯人の心理を理解する上では、かなり有効に働いていると思う。彼が犯罪を起こすに至るまでには、ちゃんと背景があったわけだし、物語があったわけだ。

シャーロック・ホームズは、確かに謎を解明する。しかしそれは、彼の動機を肯定するものではもちろんないが、否定するものでもない。ここに至って、犯罪とか謎というのは、シャーロックという一つの壁にぶち当たる。あるいは、シャーロックという透明な壁で(プレパラート上の標本のように)、断面図として提示される。

ただしそれは、彼の半生の気高さ(人間一人ひとりに生命があり、物語があり、それらは独立したものとして語られうる。哲学的にどうあれ)のようなものを毀損しないし、それどころか逆に保存するのではないか。

僕らがこの探偵小説の、たとえば第二部から見るとして、そこに感じるのは一人の青年の愛と復讐の物語なわけだし、そこだけ取ると、ちょっとこれはドストエフスキーにも見られるように、文学ですねぇ……となったりする。

これ面白かったんじゃないか?

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