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ブログをメモ帳と勘違いしている

読書記録 : デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

必要なのは、実験を行い、リスクを冒し、能力を最大限に発揮できる社会的・空間的な環境だ。頭脳明晰なT型人間を探し出し、異文化連携のチームを立ち上げ、チーム同士のネットワークを築いても、仕事が最初から決められている環境で働かされるのなら、ほとんど意味がない。組織の物理的な空間と心理的な空間の組み合わせによって、働く人々の生産性が決まるのだ。(NF407, p.47, イノベーションの文化)

こんな会社じゃないな、と自分の派遣先を思い出して考えるなど。生産性を上げろとは言われているんだけど、電話を取って記録を作っての部分はテンプレ化で結構うまくやっているつもりだが、それ以上となるとな。

T型人間とは?

得意分野をベースに周辺領域まで理解できるT型人材に対して、特定の領域に特化するスペシャリストは「I型人材」と呼ばれます。 …. 自ら新しい価値を生み出す――その役割を期待して打ち出されたのが、T型人材という人材像です。 「T型人材」とは? - 『日本の人事部』

第2章 需要をニーズに変える――人間を最優先に

  • 「人間中心のデザイン」やイノベーションにおける「人間中心」の重要性 ただし、

    人間の抱える基本的な問題とは、人間は不便な状況に適応するのに長けているということだ。(NF407, p.56)

この例として、筆者は以下のようなものをあげる

  • シートベルトの上に座る
  • 手に暗証番号を書き留める
  • ドアノブに上着を引っかける

 この他にも、本書の中には色んな例が出てくる。医局のコミュニケーション(患者についての引き継ぎ)とか。

「デザイン思考家」の仕事とは、人々が自分でさえ気付いていない内なるニーズを明らかにする手助けを行うことだ。(NF407, p.57)

 今の自分の仕事を考えてみてもそうだけど、ひとりのお客様が同じお問い合わせを何度もしてくる、ということがある。
 そういう場合、過去に案内した対処方法が今回も有効であったりするので、考えてみれば双方にとって手間だ。お客様側で過去に自分の問い合わせたものを参照できるようにしたら良いんじゃないかと思う。read the f**king manual

 さて、読書を続ける。
 筆者によると、必要なのは以下の三つ。これらは互いに相乗効果を持つ。

  • 洞察 insight
  • 観察 observation
  • 共感 empathy

洞察 insight

ある日、IDEOは、疾病管理予防センターから依頼を受けた。それは、子どもや10代の肥満の蔓延を解消するにはどうすればよいかという内容だった。私たちは、大きな社会的影響を持つ問題に定性的な調査手法を用いる絶好の機会と考え、その依頼に飛びついた。….(NF407, p.59)

 これは本書の楽しさの一つでもあるんだけど、ある組織がどういう依頼を受けてどう取り組んでいったか、という物語が書かれている本でもある。そういう意味では、ブラック・ジャックとかMASTERキートン的な面白さがあるし、冒険物とも言える。

観察 observation

共感 empathy

しかし、私たちにもビジョンがあった。共同作業を通じてデザイナーと医療専門家を結び付ける、奇抜で斬新な「共同デザイン」プロセスを取り入れる絶好の機会と考えたのだ。そこで、私たちは病院の中でもっとも過酷な環境から手を付けることにした。それが緊急治療室だ。(NF407, p.69)

実際に担架に乗り、緊急治療室まで担ぎ込まれるまでをビデオカメラに撮影する。そこから見えてきたものは、道中の風景、雰囲気など。患者の不安が追体験できるものだった。

第3章 メンタル・マトリックス

私たちの社会には、論理的・演繹的な思考の重要性が深く刻み込まれている。西洋社会と東洋社会における問題解決のアプローチについて研究した心理学者のリチャード・ニスベットは、「思考の地理」が存在するとのまで述べている。…. (NF407, p.88)

リチャード・ニスベットとは?
本のリスト: Amazon.co.jp: リチャード・E・ニスベット: 本
多分この本だと思う。次に読もうかな。

 似たような話題としては、こういうものもある。
米と小麦、作物で人の考え方にも違い | ナショナルジオグラフィック日本版サイト  ほんとかよ。この何をどう生産していたかによって、集団的な性格が変わってくる、というのはなるほど面白い説ではあるんだけど、それが必ずしも個々の性格を定めることにはならない。僕は米を作らないし、小麦も作らない。
 「思考の地理」ってのはなんなんだろうな。単語としては惹きつけられるものを感じる。でも多分、僕が惹かれているのは、「自分の頭の中の思考の地理」なんだよな、あくまでも。

相反する複数のアイデアを照らし合わせて検証することで、より大胆で、独創的・破壊的で、心をつかむアイデアが生まれやすくなる。ライナス・ポーリングはそれを見事に言いあらわしている。「よいアイデアを手に入れる最良の方法は、多くのアイデアを手に入れることだ」。そして、彼は二度のノーベル賞を受賞した。(NF407, p.89)

 ライナス・ポーリング博士はノーベル化学賞ノーベル平和賞を受賞している。
 科学者に俺もなりたかった。

第4章 作って考える――プロトタイプ製作のパワー

「実体のないプロトタイプを製作する」(p.121-125)は、物質的なものから離れて、デザイン思考が形のないものにも当てはまるとされる。

しかし、対象がサービス、バーチャル体験、組織のシステムの場合にも、同じ原則が当てはまる。(NF, p.121)

 ここから先はひょっとすると、小説を書こうとしている僕にとっても有用かもしれない、と思ったのだな。付箋が貼ってある。
 僕の目指すところはまず小説の完成だし、それができれば良いんだけど、「それ以上に何ができるか」を想像するのはとても楽しい。これは読書体験の捉え方を再考する機会になるわけだし、そこに求めているものが分かれば、もっと自分の小説を良くしていくかもしれないからだ。
 これは僕の趣向とは離れるんだけど、「読者参加型の小説」「パーソナライズされた小説」という動的な小説の需要はあったりするんじゃないか。僕は「他の人によって書かれた、もうそれ以上更新されない、(一応は)完成された小説」ってのが好きなので、自分には完結を求めているから、多分やらないけど。

この箇所ではシナリオの重要性が説かれる。

映画などのクリエイティブ産業から取り入れられた手法は、実体のない経験をプロトタイプ化する方法を示している。その一例がシナリオだ。シナリオは物語の一型式で、想定される将来の状況や状態を言葉や絵で説明するというものだ。(NF407, p.123)

 なんらかのサービスのアイディアを思いついたとして、それをどう伝えるかという問題がある。そこに、この箇所ではショートムービー(だから文章だけではない)が効果をあげた例が紹介される。

まとめ

 人間中心のデザイン、と言われるとちょっとよくわからないけど、それが生活の中でどう機能するかっていうのを考えることなのかな、と思った。
 小説に関して言えば、ぼくの場合は、まず自分がどういう気分になりたいか、自分の書く作品に何を求めているかが重要で、この点はよく考える必要がある。書いている時、書き終えた時、読み返した時にどういう気分になりたいか。まあこれは「いや俺天才では」だったりするけど。
 僕の好みはさておいて、「小説を書く体験を提供する」というサービスはどうあるべきか、どうなると素敵かっていうのは、思考実験として楽しそう。評価されたい、売れたい、同好の士を見つけたいなど色々思い浮かぶ。これは作品の要素を表すタグ機能で検索ができそうなんだけど、僕は全く使わないから感覚がわからない。そもそも、タグで見つかるようなら、小説を書いていないというような気もする。
 不特定多数の読者の気持ちを考えてみたときに、そもそも読書には何が求められているかっていうのは、市場に適した作品を書きたいなら悪い発想ではないと思う。本を、特に小説を読みたいときってどういう時だ?
 ひょっとするとこの辺りに、本を書き終えたあとで売り出す方法が潜んでいるのかもしれない。
 だけどまず書き終えるべきですね。